ふわふわとした雲を踏んでみれば、きっとふわふわとしているのだろうと何の根拠もなく思っていた。
真っ青な空に白い雲はとても奇麗に映えていて、夏を感じさせる。
この美しさは今しか見れぬもの。
私はいま、空を歩いている。
踏みしめているのは想像していたよりもずっと固い雲の上。
どうしてこんなところで歩いているのだろう。
どうしてこんなにも音がしないのだろう。
靴音でさえ何かに飲み込まれているように音がしない。
だけども、上を見上げればどこまでも青空。
世界中の色彩を集めたところで表現できないような、あお。
柔らかそうな見た目の雲は、同じようにふわふわした甘いお菓子を思い出す。
ほんのわずかな日陰を供する雲さえ頭の上には、ない。
太陽はずっとずっと遠い空。
けれどそれは地上から見るよりずっと近い。表情が見えるくらいには近い。
そろそろ午睡の時間らしい。とてもとても眠そうだ。
太陽と私。
ふんわりとした雲は固くて眩しい。
「空の端を見ることはできるかい」
太陽がまず私にそういった。
「大空に浮かぶ太陽から見えないものが、私に見れるというのでしょうか」
考えて、ほんの少し緊張しながら答えた。まさか太陽に話しかけられるだなんて思ってもみなかったから。
「ぼくはここから動かない。だから見えているものはここから見ているものだけなのさ」
あくびをかみ殺して、けだるそうな太陽が言う。ぼくはずっとそのことが気になっているんだよ、と言う。
「では、私と一緒に、空の端を見に行きますか」
「でも僕はここから動けない。動いてはいけない。そんなことをすれば君たちの世界は朝も昼もなくてずっとずっと停滞してしまうだろうから」
「けれどあなたは見たいのでしょう」
「見たいけど」
「起こる前の問題を心配してどうするんです。問題は起きてからどうするか考えたらいいんですよ。第一、あなた、眠たそうですけど、そこでずっと起きて眠ってを繰り返しているだけでしょう不健康な」
「では、人間。空を歩くヒト。歩みを止めることなく進む者。ぼくは君といっしょにいく」
見た目に反して硬い道を太陽とともに。
日差しはいつも強く、光と影のコントラストもどこまでも強く。夏、特有の。