ざわめく駅の構内。新学期がもうすぐ始まるらしく電車に乗る子どもとその保護者の見送りが多い。ぎゅうぎゅうと人ごみの中をすり抜けるようにして歩いていた。聞き取れた言葉が大半のざわめき。
見知ったものと見知らぬもの。未知への好奇心。想像していたことが現実にリアルに生々しくぶち当たってきてそのまま喧騒は流れ去る。
おなじ人間だということが疑わしく思えるくらいの色の違い。金色だなんて日本人の造作にはあわない。けれどこの国の人には良く似合っている。青い瞳と金色の髪。お人形さんみたい。みんなが可愛くてみんながカッコいい。
きょろきょろと、おのぼりさんよろしく周りを見ていたら、どん、と誰かにぶつかられた。
衝撃のままよろめいたら、目の前には石で出来た柱があった。
うっわ、と反射的に手を伸ばして衝撃に耐えようとした。
予期せぬ衝撃、から、起こるべき衝撃への覚悟を決めた。
なのに襲いくる衝撃が来なかった。だから代わりに叫んだ。

「なんで!?」

その声に、周囲の人がみんなこちらを向いた。みんなの視線が怖い。これにもぎょっとする。
一番近くにいたおじさんとしばし顔を見合わせてから、何か言われたけど何語だそれは。きっと英語なんだろうここはイギリスだから。英語圏の国だから。

英語で何でもかんでも通じるとおもうなよこのやろう!
日本語を喋ってくれ。そもそもイギリスじゃ壁抜けができて当たり前なのか!

英語が話せはしないがきっとどうにかなるという思いでここまできた。
ちょうど学校が夏期休暇にもなった。
若いうちにする無茶は大人になれば良い思い出。
会話に不自由してハプニングが起きるだろうとは思ってはいたが、壁抜けなんてアクシデントの予想なんてしていない。
これぞまさに想定外のことです。

言葉がわからなくてまわりは知らない人だらけ、後ろの柱は既にない。ので戻り方もわからない。知人もいない。

ここは異世界か。